税理士法人エナリ 公認会計士・税理士
江成 結己(えなり ゆうき)
有限責任監査法人トーマツでベンチャー企業中心に会計監査、上場支援業務を提供。コンサル会社を経て税理士法人エナリに入所。
入所後、新規創業支援、起業したばかりのベンチャー向け会計・税務、資金繰り、事業計画策定サービスの提供を開始。
現在では年間100件を超える創業起業に関する相談を受けている。

不動産をそろそろ購入して、運用を始めようかな。。
けど、どうやって始めたらいいかわかんないや。。

近年、副業としても注目を集める不動産賃貸業は、安定収入や節税効果が得られる魅力的な事業ですが、未経験者にとってその始め方は複雑に見えます。
本記事では、不動産賃貸の基本的な仕組みから、開業に必要な具体的なステップ、行政手続き、そして成功のためのリスク対策まで、不動産賃貸業の全体像を徹底的に解説します。
Contents
不動産賃貸業とは?基本の仕組みと業種区分
不動産賃貸業を始めるにあたり、まずはその事業がどういったビジネスなのか、全体像を掴むことが重要です。
不動産業界の主要な4つの種類
不動産業は、主に以下の4種類に分けられます。
- 不動産開発業
通称デベロッパーで、個人や法人から買い取った土地に、オフィスビルや分譲マンション、大型商業施設などを建設し、販売する事業です。 - 不動産仲介業
不動産の売買や賃貸借において、貸主と借主の間を取り持ち、成約した場合に受け取る仲介手数料が主な収入源となります。 - 不動産管理業
不動産のオーナーに代わって、入居者の募集や賃貸借契約の締結、家賃の回収、修繕作業、清掃・メンテナンスなど、物件の管理・運営を行う事業です。 - 不動産賃貸業
自分が所有する土地や建物を第三者に貸し出して、賃貸収入を得る事業を指します。個人が不動産投資を行う場合、ほとんどがこの不動産賃貸業に該当します。
不動産賃貸業のビジネスモデルの特徴
不動産賃貸業は、自己資金や金融機関からの借入金(ローン)を活用して土地や建物を取得し、長期間にわたって賃貸収入を得ることで投資資金を回収し、収益を確保するビジネスモデルです。
基本的な事業サイクルは、まず賃貸に出す物件を取得し、入居者(テナント)を募集して賃貸借契約を締結します。その後、毎月の賃貸収入を得ながら、必要に応じて土地・建物の維持管理や修繕を行うというサイクルで成り立っています。
アパートやマンション経営の場合、賃料変動が少ないため、他の事業に比べて収益が安定しやすい点が大きな特徴です。一方で、成功のためにはエリアの特性や立地条件の見極めが非常に重要となります。また、支払利息や管理費、修繕積立金、固定資産税など、必要経費が固定化しているため、コストダウンが難しいという側面もあります。
賃貸物件の3つの種類と特性(住居系・事務所系・商業系)
不動産賃貸業における賃貸物件としては、主に以下の3つの種類に分けられ、それぞれ特性が異なります。
- 住居系不動産(貸家業)
アパートやマンション、一戸建てなど、人が居住するための物件です。規模の小さい物件が中心のため、事務所系や商業系と比べると投資額を抑えやすく、個人経営も多いという特徴があります。安定した需要が見込めますが、建築の制約も少ないため、供給過剰で競合が多くなるというデメリットもあります。 - 事務所系不動産(貸事務所業・貸ビル業)
オフィスビルのように、企業や士業などが事務所・オフィスとして入居する物件です。入居者が事業目的で利用するため、住居系不動産よりも長期間にわたって入居してもらいやすいというメリットがあります。近年は、コワーキングスペースやシェアオフィスなど、個人事業主やフリーランス層を対象とする物件も増えています。 - 商業系不動産
飲食店ビルやショッピングモール、倉庫や駐車場など、商業・事業活動を行うための物件全般を指します。住居系に比べて収益力は高いですが、経済状況や社会情勢、周辺環境の変化により、需要が大きく変動しやすいというリスクがあります。
不動産賃貸業を始めるメリットと潜むリスク
不動産賃貸業を始める前には、そこから得られるメリットだけでなく、潜在的なリスクと対策についても理解しておくことで、長期的な安定経営につながります。
享受する3大メリット
不動産賃貸業で得られる主なメリットは以下の3点です。
- 安定収入
通常、賃貸借契約は一定期間にわたって固定された賃料を毎月受け取る形式であるため、入居者がいる限り、年単位で安定した収入(インカムゲイン)を長期的に得ることが可能です。 - 節税対策
賃貸収入から必要経費(ローンの利息や管理費、減価償却費など)を差し引いた不動産所得に対して課税されるため、これらの経費を適切に計上することで、他の所得とのバランスによっては、所得税や住民税などの税負担を軽減できる場合があります。 - 年金対策
物件のローンを完済した後も賃貸収入を得られるため、定年後の生活資金や公的年金を補完するための私的な年金対策として活用できます。
賃貸経営で後悔しないための5つの代表的リスクと対策
賃貸経営には、以下の5つの代表的なリスクが伴います。それぞれを正しく理解し、対応策についても検討しましょう。
- 空室リスク
入居者がいない期間は賃貸収入が途絶えるだけでなく、固定資産税やメンテナンス費用などの維持費がかかり続けます。対策として、賃貸需要に基づいた物件選びや、客付け力の高い管理会社を選定することが重要です。 - 家賃滞納リスク
入居者が家賃を滞納したり、回収不能に陥ったりするリスクです。家賃保証会社を利用したり、管理会社に督促業務を委託したりすることでリスクを軽減できます。 - 金利上昇リスク
変動金利でローンを組んでいる場合、金利が上昇すると毎月の返済額が増加し、収益を圧迫します。長期的な支出計画を策定し、金利上昇に耐えられる収支バランスを確保することが大切です。 - 災害リスク
地震や台風、火災などの自然災害により、建物が損壊するリスクです。万が一に備え、適切な火災保険や地震保険に加入することが必要不可欠です。 - 資産価値下落リスク
建物の老朽化や市場の変化により、物件の価値や賃料相場が下落するリスクです。定期的なメンテナンスや修繕を行い、物件の魅力を維持することが重要です。
不動産賃貸業開業までの具体的な流れ

新たに不動産賃貸業を始める場合は、計画的に準備を進めることが求められます。
この章では、ゼロから不動産賃貸業を始める際の具体的な手順について、5つのステップに分けて解説します。
【Step1】目的と目標の明確化
不動産賃貸業を始める際には、まずは事業計画を策定し、開業の目的と目標を明確化しましょう。具体的には、「なぜ不動産賃貸業を行うのか」や「将来的にどのくらいの収益を確保したいか」「どのくらいの資産規模を目指すか」などについて検討します。
また、物件選びの指針となる「単身者向け」か「ファミリー向け」かなど、ターゲットとなる入居者のイメージを具体化することも重要です。
【Step2】自己資金と資金調達計画(融資条件と審査のポイント)
不動産賃貸業を開始するには、物件の取得費用としてまとまった資金を用意しなければなりません。土地を持っていない場合は、土地の購入費用も発生します。多くの場合は、自己資金に加えて金融機関からの不動産投資ローンを活用し、資金調達を行います。
融資審査では、金融機関は融資した資金を確実に返済できるかどうかを見極めるため、実現性の高い事業計画の策定が必要不可欠です。また、安定的な給与収入がある場合など、オーナー本人の社会的信用度が高い場合には、融資審査にも有利に働くでしょう。
【Step3】物件取得方法の選択肢と流れ(新築・中古・土地活用)
賃貸用の物件を取得する場合には、主に「新築・中古物件の購入」と「土地活用」という2つの選択肢があります。
新築・中古物件を購入する場合には、取得したあとはすぐに賃貸できるため、比較的早く賃貸収入を得られます。その一方で、すでに建築済みの物件を取得するため、自分が希望する物件が見つかるとは限りません。
それに対し、土地を所有している場合は、アパートなどの賃貸住宅を建てる「土地活用」が可能です。建設にはまとまった期間を要するため、賃貸収入を得るまでに時間を要する一方で、自分の理想に合った物件を追求しやすくなります。
物件を購入する際には、まず目的に合った物件を見つけたら、買付証明書を提出します。その後、金融機関の事前審査をクリアし、売買契約を締結したあとに融資の本審査に通過したのち、決済・引き渡しを経て物件の購入が完了します。
【Step4】厳密な収益計画の策定
不動産事業で失敗しないためには、取得前に綿密な収益計画を策定することが必要不可欠です。収益性を判断する際には、表面的な利回りだけでなく、税金や諸経費(管理費や修繕費、固定資産税など)を差し引いた実質利回りを算出し、慎重に比較検討する必要があります。
また、不動産賃貸業を始める場合には、キャッシュフローのシミュレーションを実施しましょう。不動産賃貸業では、安定的かつ継続的な黒字化を目指すことが前提となるため、ローンの返済期間中でも無理のない資金繰りを実現できるような計画の立案が大切です。
【Step5】信頼できる管理会社の選定と連携
賃貸経営では、信頼できる管理会社の選定も重要な要素です。良い管理会社を見極めるための具体的なポイントは以下の通りです。
- 客付け力
空室を埋めることが最も収益改善につながるため、管理物件の入居率が95%以上であるかをひとつの目安としましょう。 - トラブル対応
入居者からのクレームや設備トラブルに対し、24時間365日迅速に対応できる体制や、十分な人員体制があるかを確認します。 - 提案力と手数料
空室発生時に、単純な家賃減額だけでなく、具体的な空室対策のノウハウがあるかどうかを確認しましょう。また、管理手数料は家賃収入の5%程度が目安ですが、安すぎる場合にもサービスの質が下がる傾向にあるため注意が必要です。
不動産賃貸業の開業に必要な行政手続き

不動産賃貸業を開業する場合には、行政手続きと経営形態の選択肢についても理解しておきましょう。
不動産賃貸業に必要な開業届と手続きの流れ
個人事業主として不動産賃貸業を行う場合、事業開始から1ヶ月以内に所轄税務署へ「個人事業の開業・廃業等届出書」(開業届)を提出する必要があります。加えて、青色申告を選択する場合には、その年の3月15日(1月16日以後に開業した場合は開業日から2ヶ月以内)までに「青色申告承認申請書」も提出しなければなりません。
青色申告を選択することで、事業規模に応じて最大65万円の特別控除を適用できるなど、さまざまな特典が受けられます。なお、青色申告特別控除として65万円の控除額を適用するためには、複式簿記による記帳が必要です。「青色申告承認申請書」を作成する際にも、簿記方式や備付帳簿名の欄を忘れずに記入しましょう。
個人事業主か法人か?税制面から見た判断基準(5棟10室)
賃貸経営を個人事業主と法人のどちらで行うかについては、税制面でのメリット・デメリットを比較して判断することが大切です。
個人事業主の場合は所得税であるのに対し、法人の場合は法人税の対象となります。一般的には合計所得金額が900万円から1,000万円を超える場合には、法人化した方が税務上のメリットが生じやすいため、法人化を検討するタイミングとされています。ただし、法人化によって事務手続きが煩雑になるうえ、赤字でも均等割として毎期7万円程度の税負担が発生するなどのデメリットもあります。
なお、個人事業主の場合、55万円または65万円の青色申告特別控除を適用するためには、不動産賃貸業が「事業的規模」に該当する必要があります。具体的には、独立家屋の貸付けが概ね5棟以上、またはアパートなどの独立した部屋数が概ね10室以上(通称「5棟10室基準」)であることを指します。
宅建業の免許は必須か?(賃貸業のみの場合)
自己所有の物件を第三者に貸し出す場合には、宅建業などの免許や資格は必要ありません。そのため、不動産賃貸業であれば、不動産関連の資格を保有していない場合でも事業を開始することが可能です。
それに対し、事業として自らが保有する不動産を売買するケースや、他人名義の不動産の売買・仲介業務を行う場合には、宅建業の免許が必要となるため、注意が必要です。
なお、不動産賃貸業で資格は必須ではないものの、宅地建物取引士や賃貸不動産経営管理士、マンション管理士などの資格を取得することで、専門知識を習得できるだけでなく、借り主からの信頼獲得にも役立つでしょう。
副業として不動産賃貸業は始められる?
不動産賃貸業は、時間的な制約を受けにくく、管理を不動産会社などに外部委託できるため、会社員の副業として人気が高い事業です。本業が安定している会社員は社会的信用度も高く、銀行のローン審査で有利に働くというメリットもあります。
しかし、副業として始める場合には、勤務先の就業規則を確認し、副業が認められているかを必ずチェックしましょう。また、先述した開業時の手続きに加え、不動産所得が発生する場合には、原則として確定申告も必要となるため、税務上の手続きの流れを理解しておくことが重要です。
「会社員として働きながら副業で不動産賃貸業を始めても大丈夫か」「税金まわりで失敗したくない」と不安を感じる方は、税理士法人エナリにお気軽にお問い合わせください。
【まとめ】不動産賃貸業を成功に導くために
不動産賃貸業は、安定収入の魅力がある一方で、空室・金利・災害などのリスク管理を徹底し、綿密な収益計画の策定が必要不可欠です。特に賃貸用物件を新たに取得する際には、事業目的を明確化したうえで、資金計画や収支シミュレーションに基づき、慎重に物件選びを行うことが大切です。
また、青色申告を適用することで節税対策を徹底するなど、長期的な視点で堅実な経営を目指しましょう。


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